乱れ雲 [DVD]
3465円
乱れ雲 [DVD]
乱れ雲 [DVD]
ロケ地である十和田湖が素晴らしい。メロドラマの王道と言えるストーリーとロケ地の十和田湖が素晴らしい。
1967年11月18日公開。 なぜか当時11歳の僕はリアルタイムで観ている。併映の森繁久弥とフランキー堺の駅前シリーズ「駅前百年」が本命だったのかどうかは記憶に残っていないが、父か母かどちらかと観にいったのだ。本作が始まったらなぜか恥ずかしくて、席を親から離れて観ていたことはしっかり覚えている。少年が垣間見た大人の愛の世界の初体験だった。 白状するが司葉子は私の理想となった。「清楚で上品でしっかりとした意見を持っている美人」でなければ完璧な女性ではないと感じた。顔の好みもそのようになった・・。相沢婦人になったときは自殺したくなったが、最近の映像を見ると相変わらずの美しさですね。もともと島根県の良家の子女なのですからごく自然な人生だったのかもしれませんが・・。 さて40年ぶりの観賞でしたが、今では考えられない森の中での抱擁シーンでの奥ゆかしさと、名場面との評価が揺るがない温泉旅館での司葉子の表情。嗚呼、なんという凄い色気。二回目の接吻を求める瞬間の表情で、私は理性を失った。 僕に大人の愛の心模様を教えてくれた生涯の傑作。加山雄三は「赤ひげ」よりもこの作品で一皮向けたのではないでしょうか？良かった良かった。
成瀬己喜男監督作品の中でこの映画は外せない。社会人となってから銀座の並木座で鑑賞したが、観終わって暫し席を立つ事ができなかった。それ位に尾を引いた作品で感銘を受けた。しかし意外な気もする。女性の心情を丹念に描いて人生の悲哀を滲ませる作家性を持つ成瀬監督の遺作はメロドラマだった。だが『浮き雲』を日本映画史上最高の恋愛映画とするなら、これは当然の帰結かも知れない。『浮き雲』は終戦直後の時代背景が持つ特殊性を絶対条件とするが『乱れ雲』は人間関係が特殊。本来対立して啀み合うはずの被害者と加害者が惹かれ合うように接近し、やがて恋愛関係へと陥ってゆく。理性と本能との葛藤が齎す倫理道徳からの逸脱とそれを克服しようとする感情の鬩ぎあいに苦悶する２人の関係を成瀬監督は的確に捉えた。夫の死亡で除籍されて遺族年金は打ち切られ、堕胎を経た彼女は実家の旅館で働く。それまで夫の庇護の下、何不自由なく暮らしてきた彼女が味わう社会の厳しさ。女主人の義姉も損得勘定の縁談を勧め、皆利己的に自分と接する中にあって加山は法的無罪にも拘わらず彼女に尽くそうとする。つまり周りの醜悪さが逆に加山の誠実で律儀な人間性を際立たせ、真摯な対応が被害者意識を和らげるように作用すると、それに気付いた彼女が自分の措かれた立場に苦しむようになってゆくというこの構成が見事なのだ。その対象となった憎悪の度合いが大きい程、彼女が加山を理解して受け入れた場合に一転して起こる罪悪感。そして加害者となっていた自分。監督はこの立場が逆転する事を計算して謝罪と反省が負い目となるような心境の変化を司の恋愛感情に反映させた。それが終盤での詫びる場面となって集約される。そこに何時しか自分は彼に支えられていたのではないか、そんな事まで想像させるような深みを感じ取る事ができる。最終的に相手の立場を慮って別れる事となるその辛さが鮮明となって双方の感情が否応なく伝わる。そこにあのテーマ音楽が流れ、加山が乗った列車と共に汽笛となって被さるラストは何度観ても感無量となる。湖畔で佇む彼女の後ろ姿からは加山の無事を祈りながらも、その行く末がどうなるか只管その成り行きを見守る心境へと陥ってしまい、今回もまた深い余韻に浸ってしまった。【雑感】この映画は間違いなく司葉子が支えており、彼女無くしては成立しない。そう思わせるほど上品で清楚に、そして儚げに撮った成瀬監督の女性を描く視点と演出を堪能して欲しい。その期待に応えた司も素晴らしく、これがベストではないか。唯一これに比肩しうる作品となれば『その場所に女ありて』（鈴木英夫監督）位しか思い浮かばない。彼女に限らず成瀬監督作品に出演した女優は幸せで女優冥利に尽きると思う。それ位に女性を熟知した監督でなければあの『浮き雲』のような作品は撮れない。特に微妙に移り変わる女性心理の乱れを繊細に映し撮った技量は卓越している。看病を境にして加山への情が湧き、その人間性に惹かれてゆく心境の変化に抗えなくなってゆく様子を巧みに捉えた一連の描写は母性本能が喚起された場面となって秀逸。そんな加山への想いが加害者という意識を希薄にしてゆく。それが終盤での詫びる場面となって結び付く。今や夫を忘れさせる存在となった加山へ抱いていた憎悪への後悔。その彼をラホールという死地へと向かわせる事で結果的に夫への報復となってしまった事への自責の念。そして直前で目撃した自動車事故、これら全てが自分への戒めとして理解した彼女に加山は最後まで加害者という立場を崩そうとしない。その配慮ある優しさが痛いほど心に染みる。そんな彼の思いに応える事ができない自分を必死に制御しようとする司の姿に感動を禁じ得ない。障害とも執れるような２人の関係が終盤に向かうほど、切ない悲恋ドラマへとなって変貌し昇華されてゆくラストは崇高ですらある。本当の意味で女性を理解している監督でなければ描く事ができない、その奥深さは時間的風化など感じさせない普遍的価値観となってこの映画を特別なものとしている。最後の最後にこのような作品を持ってきた成瀬監督。粋だなぁ～益々好きになりましたよ。
メロドラマの王道だなと楽しみました。加山雄三とお母さんのシーンが、またよかった。森光子も、いたり、なんだか予想以上に楽しめました。